No.106
2008.05 秀作鑑賞



同人誌「ぽお」

近 三津子







花吹雪その真ん中に赤ん坊   下山 光子

さくらの放射能を全身にあびる枝の真下に赤ん坊が。 生後3ヶ月くらいの赤ちゃんの顔に近づくと、お母さんでなくてもだれであろうと可愛らしく笑う。

いわゆる「三か月微笑」は、動けない赤ちゃんが 他人に世話をしてもらうために神様が仕掛けをしたのだ。
吹き荒れて花をちらすものの正体は風?それとも赤ん坊?ひたむきな思いがひたむきな作品を作る。
















お受験や小さいときから金次郎     ダイゴ 鉄哉

お受験は子供ミュージカルのオーディションと同じで、暗い子や態度の悪い子は欲しがらない。 礼儀正しく覇気のある子を合格させる。これらの子供に共通しているのは、キラキラと輝くオーラーである。

いま求められている日本人像として注目を 集めている、あのタキギを背負った二宮金次郎。学びながら、はたらく真剣さがこの句の金次郎に繋がるのだろう。







陽炎を連れて入りぬ自動ドア    大村 玉兎

強い陽射しが容赦なくふりそそぎ、輻射熱がゆらゆらと陽炎独自のリズムで踊っている。発したことばも溶けてバターに なっちゃいそう。こんなときは一流のホテルのロビーで過ごすに限る。

自動ドアがひらく。ピエロのように陽気に踊りながらついてくる陽炎へ、ここでさようならとは言えないんだよ。







  
かげろうですかそう第三土曜日です    田中いすず

思うに、この時の作者のイメージとしては、陽炎や昆虫の区別を越えた「かげろう」の世界が広がっていたのであろう。

だってあなた第三土曜日は、かげろう達の無料相談日ですもの。こころ無い人に追っかけられるわ、踏んづけられそうになるわで、 もうっ。
熱く揺らぎながら消えるがごとく相談員と、うたかたのひと時を過ごすのです。言葉がリズムをもって織られた俳句。




















目薬の効いて菜の花畑かな    青木 栄子

見渡すかぎりの羽のような菜の花畑の端っこは、きっと 太陽とつながっているんだわ。だからあんなに金色なんだと思いこんでいた少女のころ。

今は眼が痒くてショボショボして いるけれど、少しずつ目薬が効いてくるみたい。菜の花は幸せをふりまく妖精なのね。







 
夜桜の人混みに輪郭がない     寺井 禾青

人ごみレジャーには輪郭がないという。何となく茫洋として未文明な 感じがするのは、人混みは脳の機能をフル回転させるからだ。

人に当らないように、道に迷わないように、スリに遭わないように。 脳の処理能力がいっぱいになったとき、はっきりとした輪郭が描けなくなるのだ。






 








書:後谷 芳琴