No.105
2008.04 秀作鑑賞



同人誌「ぽお」60号

平山 道子







空は夕焼まだ濡れているポスト   櫻木 理子

驟雨にでも見舞われた濡れ色の赤いポストの輪郭は、夕焼け空に負けない存在感を主張し 佇む作者とポストは見事な一体感をかもしだしている。
現代の俳句は説明を嫌う。書かねばならぬことだけを書いてあとは読み手にまかせる。そんなおおらかさが共感を呼ぶ俳句。
















青空と真っ赤な味のトマト食う     ダイゴ 鉄哉

作者は豊な自然に浸りながらゆっくりと旅をつづけている。青い空と 土の匂い、「真っ赤な味」の措辞から極上のトマトに出会えた喜びが伝わってくる。手垢のつかない言葉の力強さを痛感した。







蝙蝠に覗かれている極秘メモ    田中 妙子

昼は薄暗いところに潜んでいて、日暮れから活発に動きまわる蝙蝠は、哺乳類のなかで唯一空を飛ぶことができる。かって夜明け近く 蝙蝠の乱舞する様を目のあたりにしたが、異様なエネルギーに言葉を失ったものである。

「蝙蝠に覗かれている」という、作者の臨場感は何なのか。ミステリアスな「極秘メモ」を媒介にして、作者の心象ふかく棲む蝙蝠の闇がみえてくる。







  
やぶからし親切心だと思うけれど    中田 里美

周辺の草木を枯らしてしまう蔓の勢いは貧乏かずらとも呼ばれあまり喜ばれない。誰でも日常生活には人間関係の煩わしさがつきまとう。 「親切心だと思うけれど」と低くつぶやくような措辞はやぶからしの存在と呼応して、人生の負の部分にもしなやかに向きあう作者の姿がみえる。

















俳句:富田 康子



サングラス海いろ大江戸線に乗る    渋川 京子

東京の地下鉄路線図は複雑で見ていて飽きない。大江戸線の開通は 平成12年と割合に新しい。どの駅も地下深く潜り、六本木駅などは地下43メートル、あたかも海底駅の趣さえうかがえる。
地下鉄の振動に身をゆだねる作者のサングラスの海いろは、都会に生きる者の未来にさまざまな暗示をあたえているのかもしれない。






 
引退を決めかねている黒揚羽     近 三津子

始めがあれば終わりがある。職場の定年などは否も応もなくきっぱりと終わりがくる。 しかし自分で決めなければならぬ場合は、ぐずぐずと先延ばしにすることが多い。揚羽蝶のゆったりとした飛翔は美しい。思わぬところで出会うと 声をかけたくなる。

黒揚羽はなかでも貫禄十分で頼り甲斐がありそうだが、緩やかに行き来する飛翔は、第一線からの引退を決めかねている迷いの姿かもしれない。 作者の人生観が仄見えるユニークさが好ましい。






 








書:後谷 芳琴